君に恋した夏(17、入社試験)私達は太陽ビルの7階の会議室前に受付開始の30分前。初々しいスーツに包まれた人達が、続々と集まってきていた。 個人差はあるけれど、緊張感がそれぞれ漂っている。 今日は、第一次を通過した者だけが、面接に駒を運べるというシステムだ。 運よく私も受かった一人である。 それにしても、シュミレーションとは違う独特な雰囲気に押しつぶされそうだ。 面接の前に適正検査をやる。 それが終わったら、いよいよ面接があるらしい。 ざわつき始めた頃に受付が開始された。 『では、これから受付を開始します。名前を確認します。 プリントをおくばりしますので、そちらに席順も書いています。どうぞ。』 黒のスーツを着た女性と男性2人で受付についた。 とにかく座りたかった私は一番乗りで並んだ。 『浅野 凛(あさのりん)です。よろしくおねがいします。』 『こちらに、席順のプリントです』 『はい。』 あちゃ~。やっぱり、あいうえお順か。 幼稚園から大学まで一番前の席が、いつも私の席となっていた。 つづいて同じ大学の伊崎望(いざきのぞみ)が続く。 小声で望が”また隣だね”と呟いてきた。 私は、頷いた。 望とは、幼稚園からの腐れ縁だ。いっつも、一緒だった。 まさか同じ会社の入社試験にまで一緒だとは思わなかったけどね。 会場は、思ったよりも広い。 普通の大学の教室の広さとは言っても、5、6箇所くらいで分散して行っている。 競争率が高いのは想像がついた。 私達は、東京の代々木会場だった。 『では、今から適正プリントをお配りします。スタートと言うまでは、表にしないでください』 そう言って、先程の受付をしていた女の人がプリントを配布していった。 配り終えた後で時計を見ながら、今度は男の人が 『スタートっ!』と言った。 同時にカリカリと猛スピードで書いている音だけが響いてきた。 そこには、簡単な足し算引き算などの計算。漢字の読み取り書き取り。 最後に論文。 私は順調に書いていった。 採用基準はよく分からないけれど、一番苦手な論文もなんとか形になったと思う。 『そこまで。では、後ろから順番に前に解答用紙を送ってください。』 ひととおり集め終わった。 『では今が11時半なのでお昼休憩です。一時間後にはこちらに集まってください。』 『凛、ご飯食べ行こう!』 『うん』 私もこの時、まさか運命が動き始めている事には気付いてなかった。 不思議な夢に続きがあることも、知らずに生きてきた。 それを知った時、必然を信じてもいいと・・・。 ジャンル別一覧
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